私は、賢治の作品の中から、「農民芸術概論綱要」と「雪渡り」を取り上げて、彼の生命共生の
世界観について、見つめていきたいと思います。「農民芸術概論綱要」は、賢治が1926年8月に
設立した羅須地人協会での、「農民芸術」の講義の題材として作成されました。「雪渡り」は、1921
~1922年に「愛国婦人」誌に掲載された童話です。
賢治は、「農民芸術概論綱要」の中で、彼の作品に共通するテーマ・・
生命共生の世界観を語りました。
【 農民芸術概論綱要 】 より
序論
世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はありえない
自我の意識は個人から集団社会宇宙と次第に進化する
新たな時代は世界が一の意識になり生物となる方向にある
正しく強く生きるとは銀河系を自らの中に意識してこれに応じて行くことである
結論
・・・・・・われらに要るものは銀河を包む透明な意志 巨きな力と熱である・・・・・・
賢治は、個々の生命は、宇宙の一つの大きな生命共生体の一部であることと、宇宙の源であり、
宇宙と全ての生命を創造しているグレートセントラルサンの、あらゆる生命をほんとうの幸福
(さいわい)にもたらしたいという意志が存在することに気づいていました。
続いて、人間の子どもと狐の子どもの、愛と尊敬と思いやりのある交流に、心洗われるような作品
として「雪渡り」を紹介させていただきます。
【 雪渡り 】 より
雪渡り その一(小狐の紺三郎)
「堅雪かんこ、しみ雪しんこ。」四朗とかん子とは小さな雪沓(ゆきぐつ)をはいてキックキックキック、
野原に出ました。
こんな面白い日が、またとあるでせうか。いつもは歩けない黍(きび)の畑の中でも、すすきで一杯
だった野原の上でも、すきな方へどこ迄(まで)でも行けるのです。平らなことはまるで一枚の板
です。そしてそれが沢山の小さな小さな鏡のやうにキラキラキラ光るのです。
「堅雪かんこ、凍み雪しんこ。」
二人は森の近くまで来ました。大きな柏の木は枝も埋まるくらゐ立派な氷柱(つらら)を下げて
重さうに身体を曲げて居りました。
「堅雪かんこ、凍み雪しんこ。狐の子ぁ、嫁(よめい)ほしい、ほしい。」と二人は森へ向いて高く叫び
ました。
しばらくしいんとしましたので二人はも一度叫ぼうとして息をのみこんだとき森の中から
「凍み雪しんしん、堅雪かんかん。」と云ひながら、キシリキシリ雪をふんで白い狐の子が出てきま
した。
「雪渡り」は、楽しく、明るく、温かく、ハートの中にやさしく沁み透ってくるような美しい光のあふれた
童話です。
賢治は、人間と人間、人間と他の動物、動物と動物との関わりの中
に、人間を含む動物は自らが生きるために、他の動物の生命を犠牲
にする・・他の動物を食べることに対して、罪悪感や深い悲しみを感じ
ていました。これは、惑星地球の三次元の世界で、動物が生きる生き
方に対する、深い洞察からもたらされていました。
彼は、学生時代から、菜食主義者・・ベジタリアン : Vegetarian として、
他の動物を食べない食生活を貫き、「ビジタリアン大祭」と題した小説
も書きました。
賢治は、多くの作品の中で、「透きとほった風(すきとおったかぜ)」という表現をしばしば使い、
イーハトーブに吹く風や、イーハトーブの光、イーハトーブの空気感などを語りました。彼の「透き
とほった」という表現は、五次元の地球の清らかな光を形容したものです。
私たちが存在することは喜びであり、私たちが存在することは愛です。全ての生命が存在すること
は喜びであり、全ての生命が存在することは愛です。
他の生命、他の動物に対しても、自己に対するのと同じように、愛と尊敬の想いをもつことが大切
です。生命と生命が、愛と尊敬の想いをもって共生する生き方が、それぞれの生命とその共生体と
しての全体が、「ほんたうの幸福(さいわい)」へと至る道です。
宮沢賢治の作品は、現代に生きる人々が内なる平安や喜びを見いだす一助となるのではないで
しょうか。
■ 【 宮沢賢治 イーハトーブ関連画像 】
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